Weyl 変換と Weyl 順序
正準量子化では, 古典的 Hamiltonian H(x,p,t) に対して正準変数 (x,p) を演算子 (xˆ,pˆ) に置き換えて, Hermite 演算子 H(xˆ,pˆ,t) がつくられる. 例えば, 調和振動子の Hamiltonian
H(x,p)=2mp2+21mω2x2
に対して置き換え x↦xˆ, p↦pˆ を実行すると, Hamiltonian 演算子
H1(xˆ,pˆ)=2mpˆ2+21mω2xˆ2
が得られる.
しかし, 一般の Hamiltonian に対して, この置き換えは一意ではない. 正準変数 (x,p) は古典論においては可換 xp=px であるが, 量子論においては非可換 xˆpˆ=pˆxˆ であるから, 置き換える前の並びによって得られる演算子が変わってしまうのであって. 例えば, 古典的 Hamiltonian H(x,p)=xp に対して, 単純に正準変数を置き換えると
H1(x,p)=xp⟼H1(xˆ,pˆ)=xˆpˆ
となるが, これは Hermite ではないから Hamiltonian 演算子として不適である. Hermite にするためには古典論の時点で並び替える必要があり, 例えば
H2(x,p)=2xp+px⟼H2(xˆ,pˆ)=2xˆpˆ+pˆxˆ
とすればよい.これらは古典論においては全く同じもの H1(x,p)=H2(x,p) であるが, 量子論においては全く別物 H1(xˆ,pˆ)=H2(xˆ,pˆ) である.
Hamiltonian 演算子において, Hermite であれば順序は任意であって, 問題ごとに決められるべきである. しかし, 順序を一意に, しかも機械的に求めることのできる便利な方法も存在する. それが題にある Weyl 順序だが, その前に Weyl 変換を導入しよう. 以下, 簡単のため1次元系を考える.
Weyl 変換
Weyl 変換は Hamiltonian 演算子を古典的 Hamiltonian に戻す一対一の変換である. 一対一であるから, Weyl 変換で元の古典的 Hamiltonian に戻る演算子の順序は一意であって, 差し当たりこれを Weyl 順序と呼ぼう.
Weyl 変換とは, q-数 (xˆ,pˆ) の関数を c-数 (x,p) の関数へ変換する線形な全単射 W であって,
H(xˆ,pˆ,t)WHW(x,p,t) or W[H(xˆ,pˆ,t)],HW(x,p,t)≡∫dy e−ipy/ℏ⟨x+2yH(xˆ,pˆ,t)x−2y⟩で定義される12. 運動量の固有ケットを用いて
HW(x,p,t)=∫dq eiqx/ℏ⟨p+2qH(xˆ,pˆ,t)p−2q⟩と書くこともできる.
最後の運動量の固有ケットによる表示を導こう. 位置の固有ケットによる定義に完全性 ∫dp∣p⟩⟨p∣=1 を挟んで, ⟨x∣p⟩=eipx/ℏ/2πℏ に注意すると,
HW(x,p,t)≡∫dy∫dp1∫dp2 e−ipy/ℏ⟨x+2yp1⟩⟨p1H(xˆ,pˆ,t)p2⟩⟨p2x−2y⟩=∫dy∫dp1∫dp2 e−ipy/ℏ2πℏeip1(x+y/2)/ℏ⟨p1∣H(xˆ,pˆ,t)∣p2⟩2πℏe−ip2(x−y/2)/ℏ=∫dp1∫dp2 ei(p1−p2)x/ℏ⟨p1∣H(xˆ,pˆ,t)∣p2⟩∫2πℏdye−i[p−(p1+p2)/2]y/ℏ
となって, 最後の y 積分はよく知られているようにデルタ関数の積分表示
δ(p−2p1+p2)=∫2πℏdye−i[p−(p1+p2)/2]y/ℏ
だから,
HW(x,p,t)=∫dp1∫dp2 ei(p1−p2)x/ℏ⟨p1∣H(xˆ,pˆ,t)∣p2⟩δ(p−2p1+p2)
となる. 変数変換 (p1,p2)↦(r,q)=(2p1+p2,p1−p2) を実行すれば
HW(x,p,t)=∫dq∫dr eiqx/ℏ⟨r+2qH(xˆ,pˆ,t)r−2q⟩δ(p−r)=∫dq eiqx/ℏ⟨p+2qH(xˆ,pˆ,t)p−2q⟩
となって, 運動量の固有ケットによる表示が得られた.
さて, 冒頭の例に出てきた
H1(xˆ,pˆ)=xˆpˆ,H2(xˆ,pˆ)=2xˆpˆ+pˆxˆ
について Weyl 変換を実行してみよう. xˆpˆ の Weyl 変換を計算すると
W[xˆpˆ]=∫dy e−ipy/ℏ⟨x+2yxˆpˆx−2y⟩=∫dy e−ipy/ℏ(x+2y)⟨x+2ypˆx−2y⟩
となる. ここで, 最後の期待値は完全性 ∫dp∣p⟩⟨p∣=1 を挟めば
⟨x+2ypˆx−2y⟩=∫dp′ ⟨x+2ypˆp′⟩⟨p′x−2y⟩=∫dp′ p′2πℏeip′(x+y/2)/ℏ2πℏe−ip′(x−y/2)/ℏ=∫2πℏdp′p′eip′yℏ=−iℏdyd(∫2πℏdp′eip′y/ℏ)=−iℏδ′(y)
と簡単になる. より一般に
⟨x+2ypˆnx−2y⟩=(−iℏ)nδ(n)(y)
となることが同様に示せる. これを使えば, Weyl 変換は
W[xˆpˆ]=−iℏ∫dy e−ipy/ℏ(x+2y)δ′(y)=iℏdyd[e−ipy/ℏ(x+2y)]y=0=iℏe−ipy/ℏ[ℏ−ip(x−2y)+21]y=0=px+2iℏ
となるから, まとめると
W[xˆpˆ]=xp+2iℏ
である. つまり, H1(x,p) の正準変換を置き換えて H1(xˆ,pˆ) を作ったはずが, Weyl 変換で古典的 Hamiltonian に戻すと余分な「お釣り」+iℏ/2 が出てきてしまう. 対して, Hermite 化した 2xˆpˆ+pˆxˆ の Weyl 変換は
W[2xˆpˆ+pˆxˆ]=∫dy e−ipy/ℏ⟨x+2y2xˆpˆ+pˆxˆx−2y⟩=21∫dy e−ipy/ℏ[(x+2y)+(x−2y)]⟨x+2ypˆx−2y⟩=−iℏ∫dy e−ipy/ℏxδ′(y)=iℏdyd(e−ipy/ℏx)y=0=iℏe−ipy/ℏ(ℏ−ipx)y=0=px
となって
W[2xˆpˆ+pˆxˆ]=xp
である. つまり, H(x,p)=xp の量子化のうち, Weyl 変換によって元に戻る順序, つまり Weyl 順序は H2(xˆ,pˆ)=2xˆpˆ+pˆxˆ である.
より高次の例も計算してみよう. H(x,p)=x2p については, 単純な置き換えでは
W[xˆ2pˆ]=x2p+iℏx
となって元には戻らない. そもそも xˆ2pˆ は Hermite ではないのだ. 並び替えて Hermite にしたものを試してみよう. 同様の計算によって
W[xˆpˆxˆ]=x2p,W[2xˆ2pˆ+pˆxˆ2]=x2p
などが確かめられる. 異なる2つの並びが, どちらも Weyl 順序になった. 交換関係 [xˆ,pˆ]=xˆpˆ−pˆxˆ=iℏ を使えば, これらが同じ演算子であることが容易にわかる.
では, Hermite であれば Weyl 順序なのだろうか. 実は Hermite な順序でも Weyl 順序になるとは限らない. 更に高次な例 H(x,p)=x2p2 を考えてみよう. Hermite に並び替えたものを計算すると,
W[xˆpˆ2xˆ]=x2p2+2ℏ2,W[2xˆ2pˆ2+pˆ2xˆ2]=x2p2−2ℏ2,
となる. どちらも, Hermite ではあるが Weyl 順序ではない. これらは正準変数の交換関係を用いても等しくない xˆpˆ2xˆ=(xˆ2pˆ2+pˆ2xˆ2)/2 のである. ちなみに, Weyl 変換の線形性からこれらの和は直ちに Weyl 順序
W[4xˆ2pˆ2+2xˆpˆ2xˆ+pˆ2xˆ2]=x2p2
であることがわかる.
ここまでいくつかの例で Weyl 順序を求めてきたが, より機械的に Weyl 順序を求めることを考えてみよう. そのために重要となってくるのが, Weyl 順序の生成関数 exp(αxˆ+βpˆ) である. ここで, Baker–Campbell–Hausdorff の公式
eXˆeYˆ=exp{Xˆ+Yˆ+21[Xˆ,Yˆ]+121[Xˆ,[Xˆ,Yˆ]]−121[Yˆ,[Yˆ,Xˆ]]+⋯}
を使えば,
eαxˆeβpˆ=exp(αxˆ+βpˆ+21iℏαβ),∴eαxˆ+βpˆ=e−iℏαβ/2eαxˆeβpˆ
となるから, 生成関数の Weyl 変換を計算すると
W[eαxˆ+βpˆ]=W[e−iℏαβ/2eαxˆeβpˆ]=e−iℏαβ/2∫dy e−ipy/ℏ⟨x+2yeαxˆeβpˆx−2y⟩=e−iℏαβ/2∫dy e−ipy/ℏeα(x+y/2)⟨x+2yeβpˆx−2y⟩
となる. ここで, 最後の期待値は
⟨x+2yeβpˆx−2y⟩=n∑n!1βn⟨x+2ypˆnx−2y⟩=n∑n!δ(n)(y)(−iℏβ)n=δ(y−iℏβ)
と簡単になる. ただし, 2行目が3行目の式の y まわりの Taylor 展開であることに注意. これを使うと, Weyl 変換は
W[eαxˆ+βpˆ]=e−iℏαβ/2∫dy e−ipy/ℏeα(x+y/2)δ(y−iℏβ)=e−iℏαβ/2eβpeαxeiℏαβ/2=eαx+βp
となって, 結局, Weyl 順序の生成関数 exp(αxˆ+βpˆ) は Weyl 順序
W[eαxˆ+βpˆ]=eαx+βp
であるとわかる. ついでに, 生成関数は Hermite
(eαxˆ+βpˆ)†=eαxˆ†+βpˆ†=eαxˆ+βpˆ
である.
Weyl 順序
生成関数 exp(αxˆ+βpˆ) が Weyl 変換で exp(αx+βp) に戻ることを使うと, 任意の Hamiltonian 演算子を Weyl 順序に並び替えることができる.
Weyl 順序とは, 正準変数の単項式 xˆmpˆn を一意に並び替える操作であって,
{xˆnpˆm}W≡∂αn∂n∂βm∂mexp(αxˆ+βpˆ)α=β=0で定義される. また, 正準変数の多項式に対しては線形であるように定義する.
古典的 Hamiltonian H(x,p,t) の任意の順序に対する量子化 H(xˆ,pˆ,t) に対して Weyl 順序を取ったものは {H(xˆ,pˆ,t)}W と書かれる. これを Weyl 変換をすると
W[{H(xˆ,pˆ,t)}W]=H(x,p,t)となって, Weyl 変換の単射性から {H(xˆ,pˆ,t)}W は Weyl 変換によって元の H(x,p,t) に戻る唯一の順序である.
{xˆnpˆm}W の Weyl 変換を計算すると
W[{xˆnpˆm}W]=W[∂αn∂n∂βm∂mexp(αxˆ+βpˆ)α=β=0]=∂αn∂n∂βm∂mW[exp(αxˆ+βpˆ)]α=β=0=∂αn∂n∂βm∂mexp(αx+βp)α=β=0=[xnpmexp(αx+βp)]∣α=β=0=xnpm
となるから3, 結局
W[{xˆnpˆm}W]=xnpm
となる. また, 古典的 Hamiltonian H(x,p,t) は, 時間 t の関数 Hnm(t) を係数とした正準変数の単項式 xnpm の線形結合
H(x,p,t)=n,m∑Hnm(t)xnpm
で展開できる. これを量子化した H(xˆ,pˆ,t) には, 各項の xˆnpˆm の順序の任意性があるのは前述の通りだが, Weyl 順序を取った
{H(xˆ,pˆ,t)}W=n,m∑Hnm(t){xˆnpˆm}W
は順序に関して一意である. Weyl 変換の線形性から, 直ちに
W[{H(xˆ,pˆ,t)}W]=H(x,p,t)
がわかる. ちなみに Weyl 順序の定義の Hermite 共役を取れば
{xˆnpˆm}W†=∂αn∂n∂βm∂m[exp(αxˆ+βpˆ)]†α=β=0={xˆnpˆm}W
となるから, Weyl 順序であれば Hermite であることがすぐにわかる.
ところで, 生成関数 exp(αxˆ+βpˆ) は単項式の Weyl 順序で
exp(αxˆ+βpˆ)=k,l∑k!l!1αkβl{xˆkpˆl}W
と展開できる. これと羃展開 exp(αxˆ+βpˆ)=∑n(αxˆ+βpˆ)n/n! を比較すれば,
(αxˆ+βpˆ)n=k=0∑nk!(n−k)!n!αkβn−k{xˆkpˆn−k}W
となることがすぐにわかる. Weyl 順序を得るには, 定義式よりこちらの方が便利である. 例えば, xˆ と pˆ の次数の計が n=2 のときは
(αxˆ+βpˆ)2=α2xˆ2+αβ(xˆpˆ+pˆxˆ)+β2pˆ2
より
{xˆ2pˆ0}W=xˆ2,{xˆ0pˆ2}W=pˆ2,{xˆ1pˆ1}W=2xˆpˆ+pˆxˆ
となる. n=3 のときは
(αxˆ+βpˆ)3=α3xˆ3+α2β(xˆ2pˆ+xˆpˆxˆ+pˆxˆ2)+αβ2(xˆpˆ2+pˆxˆpˆ+pˆ2xˆ)+β3pˆ3
より
{xˆ3pˆ0}W{xˆ0pˆ3}W=xˆ3,=pˆ3,{xˆ2pˆ1}W{xˆ1pˆ2}W=3xˆ2pˆ+xˆpˆxˆ+pˆxˆ2,=3xˆpˆ2+pˆxˆpˆ+pˆ2xˆ
となる. より高次な場合も同様に計算できる. これによって, これまでに出した例では
H(x,p)H(x,p)H(x,p)=xp=x2p=x2p2⟼⟼⟼{H(xˆ,pˆ)}W{H(xˆ,pˆ)}W{H(xˆ,pˆ)}W=2xˆpˆ+pˆxˆ,=3xˆ2pˆ+xˆpˆxˆ+pˆxˆ2,=6xˆ2pˆ2+xˆpˆxˆpˆ+pˆxˆ2pˆ+xˆpˆ2xˆ+pˆxˆpˆxˆ+pˆ2xˆ2
となることが, 単純な計算によってわかる. 実は, xˆn と pˆm を考えられる全ての並び替えを足して, その組合せの数 n+mCm=(n+mm) で割れば得られるため, 慣れればすぐに Weyl 順序 {xˆnpˆm}W を求めることができる.
応用: 経路積分表示
Weyl 順序という当初の目標は達せられた. 最後に, Weyl 順序の有名な応用例を見ていく. その前に, Weyl 変換を応用しやすい形に変形しよう. Weyl 変換が ⟨x+2y′H(xˆ,pˆ,t)x−2y′⟩ の y′ から p への逆 Fourier 変換であることに気付けば, HW(x,p,t) を p から y へ Fourier 変換して
⟨x+2yH(xˆ,pˆ,t)x−2y⟩=2πℏ1∫dp eipy/ℏHW(x,p,t)
となることがわかる. ここで, 変数を (x,y)↦(xi,xf)=(x−2y,x+2y) で置き換えれば,
⟨xf∣H(xˆ,pˆ,t)∣xi⟩=∫2πℏdpeip(xf−xi)/ℏHW(2xf+xi,p,t)
となって, 応用しやすい形になる4.
いよいよ Weyl 順序の応用を考える. 時刻 ti に位置 xi で粒子が観測された状態 ∣xi,ti⟩ に対し, 時刻 tf に座標 xf で粒子が観測される状態 ∣xf,tf⟩ への確率振幅(遷移振幅)は
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=⟨xf∣Uˆ(tf,ti)∣xi⟩
で与えられる. ただし, Uˆ(tf,ti) は時間発展演算子であって, よく知られているように系の Hamiltonian 演算子 H(xˆ,pˆ,t) を使って
Uˆ(tf,ti)≡Texp[iℏ1∫titfdtH(xˆ,pˆ,t)]
と書かれる5. この確率振幅に対し, 時間 ti, tf 間を N 分割
Δt≡Ntf−ti,tj≡ti+nΔt,xj≡x(tj).t0≡ti, tN≡tf
して, 完全系 ∫dqj∣xj,tj⟩⟨xj,tj∣=1 を順に挟めば,
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=∫dx1⋯∫dxN−1⟨xf,tf∣xN−1,tN−1⟩⟨xN−1,tN−1∣⋯∣x1,t1⟩⟨x1,t1∣xi,ti⟩=∫dx1⋯∫dxN−1(j=0∏N−1⟨xj+1,tj+1∣xj,tj⟩)
となる. N が十分大きければ, それぞれの ⟨xj+1,tj+1∣xj,tj⟩=⟨xj+1∣Uˆ(tj+1,tj)∣xj⟩ の時間発展演算子の積分は時間間隔 Δt の1次までの近似で
⟨xj+1,tj+1∣xj,tj⟩=⟨xj+1∣[1−ℏiΔtH(xˆ,pˆ,tj)]∣xj⟩
とできる. ここで, H(xˆ,pˆ,tj) が Weyl 順序であれば, 古典的 Hamiltonian H(x,p,t) に対して,
⟨xj+1∣H(xˆ,pˆ,tj)∣xj⟩=∫2πℏdpjeipj(xj+1−xj)/ℏH(2xj+1+xj,pj,tj)
を満たすから, それぞれの確率振幅は
⟨xj+1,tj+1∣xj,tj⟩=∫2πℏdpjeipj(xj+1−xj)/ℏ[1−ℏiΔtH(2xj+1+xj,pj,tj)]=∫2πℏdpjexp{ℏiΔt[pjΔtxj+1−xj−H(2xj+1+xj,pj,tj)]}
と求まる. 結局, ∣xi,ti⟩ から ∣xf,tf⟩ への遷移振幅は
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=∫dx1⋯∫dxN−1(j=0∏N−1∫2πℏdpjexp{ℏiΔt[Δtxj+1−xjpj−H(2xj+1+xj,pj,tj)]})=∫2πℏdp0j=1∏N−1∫2πℏdxjdpjexp{ℏij=0∑N−1Δt[Δtxj+1−xjpj−H(2xj+1+xj,pj,tj)]}
と書ける. 汎関数積分の計算法を思い出せば, N→∞ の極限で
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=∫xixfDx∫Dp exp{ℏi∫titfdt[x˙p−H(x,p,t)]}≡∫xixfDx∫Dp exp(ℏiS[x,p])
と簡潔な形に書くこともできる. これらは位相空間での経路積分表示と呼ばれており, 正準量子化法から導かれたにも関わらず c-数のみの積分で構成されていることが特徴である.
さらに p 積分を実行しよう. 今, Hamitonian が非相対論的
H=2mp2+V(x)
であるとすれば, 指数関数の肩の被積分関数は
x˙p−H(x,p,t)=x˙p−2mp2−V(x)=−2m(p−mx˙)2+2mx˙2−V(x)
と平方完成できて, 求める遷移振幅は
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=∫2πℏdp0j=1∏N−1∫2πℏdxjdpj×exp{ℏij=0∑N−1Δt[−2m(pj−m(xj+1−xj)/Δt)2+2m(Δtxj+1−xj)2−V(2xj+1+xj)]}
となる. p に関する積分は単純な Fresnel 積分になって,
== (j=0∏N−1∫2πℏdpj)exp{ℏij=0∑N−1Δt[−2m(pj−m(xj+1−xj)/Δt)2]} j=0∏N−1∫2πℏdpjexp{−i2mℏΔt(pj−mΔtxj+1−xj)2} j=0∏N−12πℏ1iΔt2πmℏ=(2πiℏΔtm)N/2
と計算できるから, 結局
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=(2πiℏΔtm)N/2j=1∏N−1∫dxjexp{ℏij=0∑N−1Δt[2m(Δtxj+1−xj)2−V(2xj+1+xj)]},
あるいは N→∞ の極限で, 汎関数積分
⟨xf,tf∣xi,ti⟩=∫xixfDx exp{ℏi∫titfdt[2mx˙2−V(x)]}=∫xixfDx exp[ℏi∫titfdtL(x,x˙)]≡∫xixfDx exp(ℏiS[x])
と書ける. これらは配位空間での経路積分表示と呼ばれている.
参考文献
- 杉田 勝実, 岡本 良夫, 関根 松夫. 『経路積分と量子電磁力学』 (森北出版, 1998)
- 九後汰一郎. 『ゲージ場の量子論 1』 (培風館, 1989)