粒子系の古典論ノート
粒子系1の古典論の基本事項を体系的にまとめる.
最小作用の原理
粒子系の古典論において, 以下を原理として認める.
時間 \(t\) に依存する一般化座標と呼ばれるパラメータ \(q^1(t),…,q^D(t)\) に対して, 作用 action と呼ばれる汎関数 \(S[q^i]\) が存在し2, 物理現象において座標 \(q^i\) は作用 \(S[q^i]\) が最小となるような経路が選ばれる.
言いかえると, 時間 \(t_1\) から \(t_2\) の運動において, \(q^i(t) ↦ q^i(t) + δq^i(t)\) (ただし両端固定 \(δq^i(t_1)=δq^i(t_2)=0\)) なる経路の微小変換に対し, 作用が停留値を取る:
\[δS[q^i] ≡ S[q^i + δq^i] - S[q^i] = 0.\]この古典的原理を最小作用の原理という.
系に対し適当な作用 \(S[q^i]\), あるいは次節の Lagrangian を決定するのが, 物理学の本質と言えよう.
例: 自由一次元一粒子系
質量 \(m\) の自由一次元一粒子系の作用は
\[S[q] = \frac{m}{2} \frac{(q(t_2)-q(t_1))^2}{t_2-t_1}\]である.
例: 調和振動子
質量 \(m\), 角振動数 \(ω\) の調和振動子の作用は
\[S[q] = \frac{mω}{2 \sin ω(t_2-t_1)} \bqty{(q(t_1)^2+q(t_2)^2) \cos ω(t_2-t_1) - 2q(t_1)q(t_2)}\]である. 上の例とあわせて, これらが \(δS[q^i] = 0\) を満たすことは明らかである.
Euler–Lagrange の運動方程式
系の作用を直接求めることは難しく, これから定義する Lagrangian を用いるのが便利である.
作用は, 座標と時間に関する Lagrangian \(L(q^i, \.q^i, t)\) を用いて,
\[S[q^i] = ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} L(q^i, \.q^i, t).\]と表される.
最小作用の原理に対し, この Lagrangian が満たすべき条件を求めよう. \(q^i ↦ q^i + δq^i\) の変換に対し, 作用の変化 \(δS[q^i]=S[q^i+δq^i]-S[q^i]\) を計算すると,
\[\begin{aligned} δS[q^i] =& ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \bqty{ L\pqty{q^i + δq^i, \.q^i + \dv{δq^i}{t}, t} - L(q^i, \.q^i, t) } \\ =& ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \bqty{ δq^i \pdv{L}{q^i} + \dv{δq^i}{t} \pdv{L}{\.q^i} } \\ =& ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \bqty{ δq^i \pdv{L}{q^i} - δq^i \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}} + \dv{}{t} \pqty{ δq^i \pdv{L}{\.q^i} } } \\ =& ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} δq^i \bqty{ \pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}} } + \bqty{ δq^i \pdv{L}{\.q^i}}_{t=t_1}^{t=t_2} \end{aligned}\]となる. ここで, 第2項は両端固定の境界条件 \(δq^i(t_1)=δq^i(t_2)=0\) より消すことができて,
\[δS[q^i] = ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} δq^i \bqty{ \pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}} }\]となる. \(δq^i(t)\) は \(t_1<t<t_2\) で任意だから, 原理 \(δS[q^i] = 0\) より, 次の運動方程式が得られる.
最小作用の原理を満たすとき, Lagrangian \(L(q^i,\.q^i,t)\) は Euler–Lagrange の運動方程式
\[\pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}} = 0\]を満たす.
これにより, 変分条件 \(δS[q^i]=0\) を満たす \(q^i(t)\) を求める問題は, Euler–Lagrange 方程式という微分方程式を解く問題と等価であることがわかった.
ところで, Lagrangian は一意ではない. Lagrangian \(L(q,\.q,t)\) に対し, 位置と時間の関数 \(f(q,t)\) の時間に関する完全微分 \(\d{f(q,t)}/\d{t}\) を加えた量
\[\begin{aligned} \~L(q,\.q,t) &:= L(q,\.q,t) + \dv{f(q,t)}{t} \\ &= L(q,\.q,t) + \.q^j \pdv{f(q,t)}{q^j} + \pdv{f(q,t)}{t} \end{aligned}\]は同じ形の Euler–Lagrange の運動方程式を与える. 実際,
\[\begin{gathered} \pdv{\~L}{q^i} = \pdv{L}{q^i} + \.q^j \frac{∂^2f}{∂q^i∂q^j} + \frac{∂^2f}{∂q^i∂t}, \\ \dv{}{t} \pqty{\pdv{\~L}{\.q^i}} = \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i} + \pdv{f}{q^i}} = \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}} + \.q^j \frac{∂^2f}{∂q^j∂q^i} + \frac{∂^2f}{∂t∂q^i} \end{gathered}\]であるから, 辺々引いて,
\[\pdv{\~L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{\~L}{\.q^i}} = \pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}}\]となり, \(L\) について Euler–Lagrange 方程式が成立するなら, \(\~L\) についても成立する.
例: 一次元一粒子系
一次元一粒子系の Lagrangian は
\[L(q, \.q, t) = \frac12 m \.q^2 - V(q)\]で与えられる. ただし \(V(q)\) は系のポテンシャルである. ここで,
\[\pdv{L}{q} = - \pdv{V}{q}, \quad \dv{}{t}\pqty{\pdv{L}{\.q}} = \dv{}{t} (m \.q) = m \"q\]であるから, Euler–Lagrange の運動方程式は,
\[m\"q + \pdv{V}{q} = 0\]と求まる. これは Newton の運動方程式として知られており, Lagrangian 決定の任意性を除けば, 最小作用の原理は物理原理として well-defined であることがわかる.
ポテンシャルが無い (\(V=0\)) ときの作用の表式を求める. 運動方程式 \(m\"q = 0\) を解いて,
\[\.q(t) = \frac{q(t_2)-q(t_1)}{t_2-t_1}\]が得られる. したがって, 作用は
\[S[q] = ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \frac{m}{2} \frac{(q(t_2)-q(t_1))^2}{(t_1-t_2)^2} = \frac{m}{2} \frac{(q(t_2)-q(t_1))^2}{t_2-t_1}\]と求まる.
例: 調和振動子
調和振動子の Lagrangian は,
\[L(q, \.q, t) = \frac12 m \.q^2 - \frac12 m ω^2 q^2.\]で与えられる. ここで,
\[\pdv{L}{q} = - m ω^2 q, \quad \dv{}{t}\pqty{\pdv{L}{\.q}} = \dv{}{t} (m \.q) = m \"q\]であるから, Euler–Lagrange の運動方程式は
\[m\"q + m ω^2 q = 0\]と求まる.
作用の表式を求める. 運動方程式を解いて,
\[\begin{aligned} q(t) &= \frac{q_1 \sin ω(t-t_2) - q_2 \sin ω(t-t_1)}{\sin ω(t_1-t_2)}, \\ \.q(t) &= ω \frac{q_1 \cos ω(t-t_2) - q_2 \cos ω(t-t_1)}{\sin ω(t_1-t_2)} \\ \end{aligned}\]が得られる. ただし, \(q_1 ≡ q(t_1)\), \(q_2 ≡ q(t_2)\) とした. したがって, 作用は,
\[\begin{aligned} S[q] &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \frac{m}{2} \bqty{\qty{ω \frac{q_1 \cos ω(t-t_2) - q_2 \cos ω(t-t_1)}{\sin ω(t_1-t_2)}}^2 - ω^2 \qty{\frac{q_1 \sin ω(t-t_2) - q_2 \sin ω(t-t_1)}{\sin ω(t_1-t_2)}}^2} \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \frac{mω^2}{2} \frac{q_1^2 \cos 2ω(t-t_2) + q_2^2 \cos 2ω(t-t_1) - 2q_1q_2\cos(2t-t_1-t_2)}{\sin^2 ω(t_2-t_1)} \\ &= \frac{mω}{2 \sin ω(t_2-t_1)} \bqty{(q_1^2+q_2^2) \cos ω(t_2-t_1) - 2q_1q_2} \\ \end{aligned}\]と求まる.
Noether の定理
Lagrangian は運動方程式を与えるだけでなく, 系の対称性に関する情報も持っている. 時間と座標の連続変換に対し作用が不変であるとき, 系には対応する不変量が存在することが知られている. この定理は Noether の定理と呼ばれている.
時間の微小変換 \(t↦t'=t+δt\) に対し, 座標が \(q^i(t)↦q'^i(t')=q^i(t)+δq^i(t)\) と変換されるとする. このとき \(t_1<t<t_2\) の作用の変化 \(δS[q^i(t)]=S[q'^i(t')]-S[q^i(t)]\) を計算すると,
\[\begin{aligned} δS[q^i] &= ∫_{t_1+δt(t_1)}^{t_2+δt(t_2)} \d{t'} L(q'^i(t'),∂'_tq'^i(t'),t') - ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} L(q^i(t),\.q^i(t),t) \\ & \quad \pqty{\d{t'} = \dv{t'}{t} \d{t} = (1+δ\.t) \d{t}} \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \Big[ (1+δ\.t) L(q'^i(t'),∂'_tq'^i(t'),t') - L(q^i(t),\.q^i(t),t) \Big] \\ & \quad \pqty{ ∂'_tq'(t') = \dv{t}{t'} ∂_t (q^i(t)+δq^i(t)) = (1-δ\.t)(\.q^i+δ\.q^i) = \.q^i+δ\.q^i-\.q^iδ\.t } \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \Big[ δ\.t L + L(q^i+δq^i,\.q^i+δ\.q^i-\.q^iδ\.t,t+δt) - L(q^i,\.q^i,t) \Big] \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \bqty{δ\.t L + δq^i \pdv{L}{q^i} + (δ\.q^i-\.q^iδ\.t) \pdv{L}{\.q^i} + δt \pdv{L}{t}} \\ & \quad \pqty{\text{Lie 微分 $δ^Lq^i(t) ≡ q'^i(t) - q^i(t) = δq^i - \.q^i δt$}} \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \bqty{δ\.t L + (δ^Lq^i + \.q^i δt) \pdv{L}{q^i} + (∂_tδ^Lq^i + \"q^i δt) \pdv{L}{\.q^i} + δt \pdv{L}{t}} \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} \qty{ δ^Lq^i \bqty{\pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}}} + \dv{}{t} \pqty{δ^Lq^i \pdv{L}{\.q^i} + δt L} } \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} δ^Lq^i \bqty{\pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}}} + \bqty{δ^Lq^i \pdv{L}{\.q^i} + δt L}_{t=t_1}^{t=t_2} \\ &= ∫_{t_1}^{t_2} \d{t} δ^Lq^i \bqty{\pdv{L}{q^i} - \dv{}{t} \pqty{\pdv{L}{\.q^i}}} + \bqty{δq^i \pdv{L}{\.q^i} - δt \pqty{\.q^i \pdv{L}{\.q^i} - L}}_{t=t_1}^{t=t_2} \\ \end{aligned}\]となる. ここで, 最後の式の第一項は Euler–Lagrange の運動方程式より消え, 第二項の \(t_1\), \(t_2\) は任意である3. したがって, この変換に対し作用が不変 \(δS=0\) であるとすると, 対応する保存量が得られる.
時間の微小変換 \(t↦t'=t+δt\) に対し, 座標が \(q^i(t)↦q'^i(t')=q^i(t)+δq^i(t)\) と変換されるとき, 作用が不変であるならば, 量
\[δQ ≡ δq^i p_i - δt H ≡ δq^i \pdv{L}{\.q^i} - δt \pqty{\pdv{L}{\.q^i} \.q^i - L}\]は保存する(Noether の定理 Noether’s theorem):
\[\dv{δQ}{t} = 0, \quad (⇔ δQ = \mathrm{const.})\]ここで, 量
\[p_i ≡ \pdv{L}{\.q^i}, \quad H ≡ \.q^i \pdv{L}{\.q^i} - L = \.q^i p_i - L\]はそれぞれ一般化運動量, Hamiltonian と呼ばれる(後述).
例: 空間並進に対する不変量
空間並進 \(t↦t'=t, q^i(t)↦q'^i(t')=q^i(t)+ε^i\) に対し, 作用が不変であるとき, 一般化運動量は保存する:
\[δQ = ε^i p_i = \mathrm{const.} \quad ∴ p_i = \mathrm{const.}\]例: 時間並進に対する不変量
時間並進 \(t↦t'=t+ε\), \(q^i(t)↦q'^i(t')=q^i(t)\) に対し, 作用が不変であるとき, Hamiltonian は保存する:
\[δQ = - ε H = \mathrm{const.} \quad ∴ H = \mathrm{const.}\]例: 空間回転に対する不変量
3 次元空間での一粒子を考える. 正規直交座標系 \(q=\bm{x}\) を取り, 空間回転 \(t↦t'=t\), \(\bm{x}(t) ↦ \bm{x}'(t') = R(\bm{ε}) \bm{x}(t) = \bm{x}(t) - \bm{ε} × \bm{x}(t)\) に対し, 作用が不変であるとき, 対応する保存量 \(\bm{L}\) は角運動量と呼ばれる:
\[δQ = (- \bm{ε} × \bm{x}) ⋅ \bm{p} = - \bm{ε} ⋅ \pqty{\bm{x} × \bm{p}} = \mathrm{const.}\] \[∴ \bm{L} ≡ \bm{x} × \bm{p} = \mathrm{const.}\]Hamilton–Jacobi 方程式
前節で導入された Hamiltonian は, Lagrangian を Legendre 変換したものであり, 系に関して Lagrangian と同程度の情報を持つ. 以降, Hamiltonian の性質について詳しくみていく4.
Lagrangian \(L\) が与えられたとき, \(q^i\) に対して
\[p_i ≡ \pdv{L}{\.q^i}\]を一般化運動量, または \(q^i\) に共役な運動量 conjugate momentum といい, 一般化座標とそれに共役な運動量の組 \((q^i, p_i)\) を正準変数 canonical variables という.
Lagrangian \(L\) と正準変数 \((q^i, p_i)\) が与えられたとき5,
\[H(q^i, p_i, t) ≡ \.q^i p_i - L\]を Hamiltonian という.
一般化運動量と Hamiltonian は作用を端点で偏微分して
\[p_i(t) = \pdv{S}{q^i(t)}, \quad H(q^i,p_i,t) = - \pdv{S}{t}\]と得ることもできる. ただし作用は \(S[q^i]=∫_{t_0}^{t} \d{t'} L(q^i,\.q^i,t')\) で与えられている. 実際, Norther の定理と同じ状況での変分は
\[δS[q^i] = \bqty{δq^i p_i - δt H}_{t'=t_0}^{t'=t}\]である. このときの始点での変位を \(δt(t_0)=δq^i(t_0)=0\) とすれば,
\[δS[q^i] = δq^i p_i - δt H\]となる. この変分は経路の始点と途中 \(t'∈[t_0,t)\) によらない形になっているから, 一点 \(t\) での変位から求めたい全微分
\[\d{S} = \d{q^i} p_i - \d{t} H\]が得られる.
これらの性質を組み合わせることで以下の方程式が得られる.
最小作用の原理を満たす作用 \(S[q^i] = ∫_{t_0}^t \d{t'} L(q^i,\.q^i,t')\) に対し, 作用の端点 \(t\), \(q(t)\) での偏微分は Hamilton–Jacobi 方程式 Hamilton–Jacobi equation
\[H\pqty{q^i(t),\pdv{S}{q^i(t)},t}+\pdv{S}{t}=0\]を満たす.
Hamilton の運動方程式
Lagrangian の場合と同様に, 最小作用の原理に対し Hamiltonian が満たす条件を求めよう. Hamiltonian \(H(q^i, p_i, t) ≡ \.q^i p_i - L\) の全微分は,
\[\begin{aligned} \d{H} &= \.q^i \d{p_i} + p_i \d{\.q^i} - \d{L} \\ &= \.q^i \d{p_i} + p_i \d{\.q^i} - \pdv{L}{q^i} \d{q^i} - p_i \d{\.q^i} - \pdv{L}{t} \d{t} \\ & \quad \pqty{∵ \d{L} = \pdv{L}{q^i} \d{q^i} + \pdv{L}{\.q^i} \d{\.q^i} + \pdv{L}{t} \d{t}} \\ &= - \pdv{L}{q^i} \d{q^i} + \.q^i \d{p_i} - \pdv{L}{t} \d{t} \end{aligned}\]である. ここで, Euler-Lagrangian 方程式が成立するとき \(\.p_i = ∂L / ∂q^i\) であることを用いると, Hamiltonian に関する運動方程式が得られる.
最小作用の原理を満たすとき, Hamiltonian は以下の Hamilton の運動方程式あるいは正準方程式 canonical equation
\[\.p_i = - \pdv{H}{q^i}, \quad \.q^i = \pdv{H}{p_i}\]を満たす.
Lagrangian が時間に陽に依存しないとき, Hamiltonian
\[\pdv{H}{t} = -\pdv{L}{t} = 0\]は保存する. 時間並進に対して作用が不変であるから, 前述の Noether の定理の結果とも一致する.
\(q^i(t)\) と \(p_i(t)\) を独立にした作用
\[S[q^i, p_i] = ∫_{t_1}^{t_2}\d{t} \bqty{\.q^i(t) p_i(t) - H\pqty{q^i(t),p_i(t),t}}\]も用いられる. このときの最小作用の原理は
\[δS[q^i, p_i] = S[q^i+δq^i, p_i+δp_i] - S[q^i, p_i] = 0\]で表される.
例: 一次元一粒子系
一次元一粒子系の Lagrangian は,
\[L(q, \.q, t) = \frac12 m \.q^2 - V(q)\]であった. 一般化運動量の定義より,
\[p = \pdv{L}{\.q} = m \.q\]である. したがって \(\.q = p / m\) であるから, Hamiltonian の定義より,
\[H(q, p, t) = \frac{p}{m} p - L\pqty{q, \frac{p}{m}, t} = \frac{p^2}{2m} + V(q)\]と求まる. ここで,
\[\pdv{H}{q} = \dv{V}{q}, \quad \pdv{H}{p} = \frac{p}{m}\]であるから, Hamilton の運動方程式は,
\[\.p = - \dv{V}{q}, \quad \.q = \frac{p}{m}\]と得られる.
例: 調和振動子
調和振動子の Lagrangian は,
\[L(q, \.q, t) = \frac12 m \.q^2 - \frac12 m ω^2 q^2\]であった. 一般化運動量の定義より,
\[p = \pdv{L}{\.q} = m \.q\]である. したがって \(\.q = p / m\) であるから, Hamiltonian の定義より,
\[H(q, p, t) = \frac{p}{m} p - L\pqty{q, \frac{p}{m}, t} = \frac{p^2}{2m} + \frac12 m ω^2 q^2\]と求まる. ここで,
\[\pdv{H}{q} = m ω^2 q, \quad \pdv{H}{p} = \frac{p}{m}\]であるから, Hamilton の運動方程式は,
\[\.p = - m ω^2 q, \quad \.q = \frac{p}{m}\]と得られる.
正準変換
正準変数の変換 \((q^i, p_i) ↦ (q'^j, p'_j) = (q'^j(q^i, p_i), p'_j(q^i, p_i))\) に対して Hamiltonian が \(H(q^i,p_i,t) ↦ H'(q'^j,p'_j,t)\) と変換されるとき, この正準変数の変換を正準変換 canonical transformation という. いずれの表示でも最小作用の原理を満たすとき, Hamiltonian の定義から,
\[\begin{gathered} δS[q^i,p_i] = δ∫\d{t} (\.q^i p_i - H) = 0, \\ δS'[q'^i,p'_i] = δ∫\d{t} (\.q'^i p'_i - H') = 0. \end{gathered}\]したがって, ある関数 \(W\) が存在して,
\[\begin{gathered} (\.q^i p_i - H) - (\.q'^i p'_i - H') = \dv{W}{t}. \\ ∴\d{W} = p_i \d{q^i} - p'_i \d{q'^i} - (H - H') \d{t}. \end{gathered}\]または, 両辺に \(\d{(q'^i p'_i)}/\d{t}\) を足して,
\[\begin{gathered} (\.q^i p_i - H) - (- q'^i \.p'_i - H') = \dv{}{t} \pqty{W + q'^i p'_i} =: \dv{W'}{t}. \\ ∴\d{W'} = p_i \d{q^i} + q'^i \d{p'_i} - (H - H') \d{t}. \end{gathered}\]これら \(W(q^i, q'^i, t)\), \(W'(q^i, p'_i, t)\) をどちらも母関数といい, 以下を満たす.
\[\begin{gathered} p_i = \pdv{W}{q^i}, \quad p'_i = - \pdv{W}{q'^i}, \quad H' = H + \pdv{W}{t}, \\ p_i = \pdv{W'}{q^i}, \quad q'^i = \pdv{W'}{p'_i}, \quad H' = H + \pdv{W'}{t}. \end{gathered}\]Poisson 括弧
正準変数 \((q^i, p_i)\) に対し, Poisson 括弧 Poisson braket は以下で定義される演算である:
\[\{A, B\}_\mathrm{P} ≡ \pdv{A}{q^i}\pdv{B}{p_i} - \pdv{B}{q^i}\pdv{A}{p_i}.\]正準変数自身は以下を満たす:
\[\{q^i, p_j\}_\mathrm{P} = δ_j^i, \quad \{q^i, q^j\}_\mathrm{P} = \{p_i, p_j\}_\mathrm{P} = 0.\]また, Hamilton の運動方程式は以下のように書き換えられる:
\[\begin{aligned} \dv{q^i}{t} = \{q^i, H\}_\mathrm{P}, && \dv{p_i}{t} = \{p_i, H\}_\mathrm{P}. \end{aligned}\]より一般に, 正準変数と時間に関する物理量 \(A(q^i, p_i, t)\) について, 時間微分に関して以下が成立する:
\[\dv{A}{t} = \{A, H\}_\mathrm{P} + \pdv{A}{t}.\]実際, \(A\) の時間による完全微分は,
\[\begin{aligned} \dv{A}{t} &= \pdv{A}{q^i} \.q^i + \pdv{A}{p_i} \.p_i + \pdv{A}{t} \\ &= \pdv{A}{q^i} \pdv{H}{p_i} - \pdv{A}{p_i} \pdv{H}{q^i} + \pdv{A}{t} \\ &= \{A, H\}_\mathrm{P} + \pdv{A}{t}. \end{aligned}\]この式は, 物理量 \(A\) の全時間発展が Hamiltonian \(H\) によって記述されることを意味している.
また, Poisson 括弧は以下の性質を満たす:
- 双線型性: \(\{aX+bY, Z\}_{\mathrm{P}} = a\{X,Z\}_{\mathrm{P}} + b\{Y,Z\}_{\mathrm{P}}\), \(\{X, aY+bZ\}_{\mathrm{P}} = a\{X,Y\}_{\mathrm{P}} + b\{X,Z\}_{\mathrm{P}}\),
- 交代性: \(\{X,Y\}_{\mathrm{P}} = - \{Y,X\}_{\mathrm{P}}\),
- Jacobi 律: \(\{X,\{Y,Z\}_{\mathrm{P}}\}_{\mathrm{P}} + \{Y,\{Z,X\}_{\mathrm{P}}\}_{\mathrm{P}} + \{Z,\{X,Y\}_{\mathrm{P}}\}_{\mathrm{P}} = 0\).
したがって, Poisson 括弧は Lie 代数の括弧積である.
参考文献
- ランダウ, L., リフシッツ, E. 『力学』 (広重 徹, 水戸 巌訳, 東京図書, 2008)
- 井田大輔 『現代解析力学入門』 (朝倉書店, 2020)
- 高橋 康, 柏 太郎 『量子場を学ぶための場の解析力学入門 増補第2版』 (講談社サイエンティフィク, 2005)
- 柏 太郎 『新版 演習 場の量子論』 (サイエンス社, 2006)
Footnotes
-
ここでの「粒子系」は「(一般的な意味での)場でない」程度の意味である. 厳密には粒子系も時間 \(ℝ\) から配位空間 \(ℝ^D\) への場 \(q=(q^i):ℝ→ℝ^D\) であるから, 場の理論の特別な場合とも言える. ↩
-
正しくは \(S[q^1(t),…,q^D(t)]\) と書かれるべきであるが, 配位空間に関する任意の列 \(\{a^1,…,a^D\}\) は単に \(a^i\) と書かれることが多い. この添字 \(i\) は添字集合 \(\{a^i\}_{i=1}^D\) 程度の意味であり, あまり気にしてはいけない. ↩
-
最小作用の原理の場合と違い, このときの \(δq^i\) は両端固定でない. そのため, Euler-Lagrange の運動方程式の際に消えた発散項を, 今回の場合は消すことができない. ↩
-
Lagrangian を用いた議論を「Lagrange 形式」, Hamiltonian を用いた議論を「Hamilton 形式」と呼ぶことがある. ↩
-
たとえば \(p_i = ∂L(q^i,\.q^i,t)/∂\.q^i\) を逆に解いて \(p_i = \.q_i=(q_i,p_i,t)\) が得られたとき. ↩