代数学
群
集合 \(G\) と写像 \(μ:G×G→G\) に対して, 以下の4条件を考える.
- 結合律 associativity: \(μ(μ(x,y),z)=μ(x,μ(y,z))\),
- 単位元の存在 identity: \({}^∃e∈G\), \(μ(x,e)=μ(e,x)=x\),
- 逆元の存在 inverse: \({}^∃x'∈G\), \(μ(x,x')=μ(x',x)=e\),
- 可換律 commutativity: \(μ(x,y)=μ(y,x)\).
組 \((G,μ)\) あるいは単に \(G\) について, 条件1を満たすものを半群 semi-group, 条件1,2を満たすものをモノイド monoid, 条件1,2,3を満たすものを群 group, 条件1,2,3,4を満たすものを可換群 commutative group あるいは Abel 群 abelian group, 加法群 addictive group, 加群1などという. \(μ(x, y) =: x ⋅ y =: xy\), \(e =: 1\), \(x' =: x^{-1}\) などと表記される. また, Abel 群において, \(μ(x,y)=:x+y\), \(e=:0\), \(x'=:-x\) などと表記されることも多い.
1. 結合律 | 2. 単位元 | 3. 逆元 | 4. 可換律 | |
---|---|---|---|---|
半群 | ◯ | - | - | - |
モノイド | ◯ | ◯ | - | - |
群 | ◯ | ◯ | ◯ | - |
Abel 群 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
群 \(G\) が有限集合であるとき, \(G\) を有限群 finite group という. このとき, \(G\) の濃度を \(G\) の位数 order といい, \(|G|\) と書く. 群 \(G\) が有限群でないとき, \(G\) を無限群 infinite group という.
群 \(G\) の元 \(g\) に対して, \(g^n = e\) となる \(n ∈ ℕ\) が存在するとき, \(g\) は有限位数であるという. また, これを満たす最小の \(n\) を \(g\) の位数といい, \(\operatorname*{ord}(g)\) と書く. 位数 \(n\) の \(g\) の羃乗で作られる群を巡回群という.
集合 \(X\) から \(X\) への全単射の全体は, 写像の合成に関して群をなし, これを \(X\) の自己同型群といい, \(\operatorname*{Aut}(X)\) と書く.
部分群と剰余類
群の部分集合が積に対してまた群であるとき, この部分集合を部分群 subgroup という. これは, 群 \(G\) の部分集合 \(H⊂G\) が元 \(x,y∈H\) に対して \(xy^{-1}∈H\) を満たすことと必要十分である. 部分集合 \(S ⊂ G\) に対して, \(S\) を含む最小の部分群を \(S\) が生成する部分群 subgroup generated by \(S\) といい, \(⟨S⟩\) と書く. 特に \(G = ⟨S⟩\) であるとき, \(S\) を \(G\) の生成系 system of generators という.
群 \(G\) の部分群 \(H\) について, \(gH := \{ gh \mid h ∈ H \} ⊂ G\) を左剰余類 left conset という. 左剰余類の全体を \(G/H\) と書く. 同様に右剰余類 \(Hg\) とその全体 \(H \backslash G\) が定まる.
群 \(G\) の部分群 \(H\) について, 群の元 \(g ∈ G\) に対し \(gHg^{-1} = H\) を満たす \(H\) を \(G\) の正規部分群 normal subgroup といい, \(H \triangleleft G\) と書く. 群の元 \(g, g' ∈ G\) に対して, \(G/H\) 上の演算を
\[(gH)(g'H) := (gg')H\]と定義すると, \(G/H\) は群となる. この群を商群 quotient group という. また, 商群 \(G/H\) の元(左剰余類)を \([g]:=gH\) と書く. これはちょうど, \(x,y∈G\) に対して同値関係を \(x∼y:⇔xy^{-1}∈H\) と定義したときの同値類 \([x]=\{y∈G \mid x∼y\}\) に等しい.
準同型写像
群 \(G\), \(G'\) について, 写像 \(f : G → G'\) が群の元 \(x, y ∈ G\) に対し
\[f(xy) = f(x) f(y)\]を満たすとき, \(f\) を \(G\) から \(G'\) への準同型写像 homomorphism, あるいは単に準同型 hommomorohic といい, 準同型の全体を \(\operatorname*{Hom}(G,G')\) と書く. また, 群 \(G\), \(G'\) に対し, 群の図式
\[\begin{CD} G @>{f}>> G' \\ @| \circlearrowleft & @| \\ G @<<{f'}< G' \end{CD}\]が可換になるような準同型 \(f:G→G'\), \(f':G'→G\) が存在するとき, \(f\) を同型写像 isomorphism という. このとき, \(G\), \(G'\) は 同型 isomorphic といい, \(G ≃ G'\) と書く. これは準同型 \(f:G→G'\) が全単射であることが必要十分である.
準同型 \(f : G → G'\) に対し, 群 \(G'\) の部分群 \(\operatorname*{Im}f:=\{f(x)∈G' \mid x∈G\}\) を \(f\) の像 image, 群 \(G\) の正規部分群 \(\operatorname*{Ker}f:=\{x∈G \mid f(x)=e'\}\) を \(f\) の核 kernel という. また, \(\operatorname*{Coker}f:=G'/\operatorname*{Im}f\) を余核 cokernel, \(\operatorname*{Coim}f:=G/\operatorname*{Ker}f\) を余像 coimage という. 余像と像は同型
\[\operatorname*{Coim} f = G/\operatorname*{Ker} f ≃ \operatorname*{Im} f\]である(準同型定理).
群の作用
群 \(G\) と集合 \(X\) について, 準同型 \(ρ:G→\operatorname*{Aut}(X)\) が与えられたとき, 群 \(G\) が集合 \(X\) に左作用する \(G\) acts on \(X\) あるいは単に作用するといい, \(g⋅x=gx:=ρ(g)(x)\) と書く. このとき, \(g,h∈G\), \(x∈X\) に対し, \(g(hx)=(gh)x\), \(ex=x\) を満たす. また, この \(X\) を左 \(G\)-集合 left \(G\)-set あるいは単に \(G\)-集合 \(G\)-set という. 同様に右作用と右 \(G\)-集合も \(x⋅g=xg:=ρ(g)(x)\) によって定義される.
群 \(G\) の \(X\) への作用 \(G×X→X\) に対して, \(Gx:=\{gx \mid g∈G\}\) を \(x\) の軌道 orbit という. また, \(G_x:=\{g∈G \mid gx=x\}\) を固定化部分群 stabilizer という. このとき, \(G\) の \(G_x\) による商群と軌道 \(Gx\) は同型である: \(G/G_x≃Gx\).
左 \(G\)-集合 \(X\) について, \(x∈X\) に対して \(Gx=X\) となる作用は推移的 transitive であるという. また, \(G_x=\{e\}\) であるとき, この作用は単一推移的 simply transitive という.
環・体
和 \((R,+)\) が Abel 群(単位元 \(0\)), 積 \((R,⋅)\) が半群である集合 \(R\) について, 以下の3条件を考える.
- 分配則: \(x(y+z)=xy+xz\), \((x+y)z=xz+yz\),
- 乗法の可換律: \(xy=yx\),
- 乗法の単位元, 逆元の存在: \(x1=1x\), \(yy^{-1}=y^{-1}y=1\) (ただし \(y≠0\))
組 \((R,+,⋅)\) あるいは単に \(R\) について, 条件1を満たすものを環 ring, 条件1,2を満たすものを可換環 commutative ring, 条件1,3を満たすものを斜体 skew field または可除環 division ring, 条件1,2,3を可換体 commutative ring または単に体 field という.
1. 分配則 | 2. 乗法の可換律 | 3. 乗法の単位元, 逆元 | |
---|---|---|---|
環 | ◯ | - | - |
可換環 | ◯ | ◯ | - |
斜体 | ◯ | - | ◯ |
体 | ◯ | ◯ | ◯ |
環 \(R\) が任意の元 \(x,y∈R\) について \(x,y≠0\) ならば \(xy≠0\) であるとき, \(R\) を整環 domain という. 整環である可換環を特に整域 integral domain という.
部分環と剰余類
環 \(R\) の加法に関する部分群 \(S\) について, \(S\) が \(R\) の乗法で閉じている, つまり任意の \(S\) の元 \(x, y ∈ S\) について \(xy ∈ S\) であるとき, \(S\) を \(R\) の部分環 subring という.
環 \(R\) 部分環 \(\{x∈R \mid ∀y∈R,xy=yx\}\) を \(R\) の中心といい, \(Z(R)\) と書く.
環 \(R\) の部分集合 \(I\) が以下の2条件を満たすとき, \(I\) を 環 \(R\) のイデアル ideal という.
- \({}^∀z_1,{}^∀z_2∈I\), \(z_1+z_2∈I\),
- \({}^∀z∈I\), \({}^∀x,{}^∀y∈R\) ならば \(xzy∈I\).
環 \(R\) 自身も環 \(R\) のイデアルである. 環 \(R\) のイデアルのうち, \(R\) 以外で集合の包含関係に関して極大なものを極大イデアル maximal ideal という.
環 \(R\) のイデアル \(I\) に対し, 和に対する左剰余類の全体 \(R/I:=\{x+I \mid x∈R\}\) を考える. 環の元 \(r,r'∈R\) に対して \(R/I\) 上の演算を
\[\begin{gathered} (r+I)+(r'+I):=(r+r')+I, \\ (r+I)(r'+I):=rr'+I \end{gathered}\]と定義すると, \(R/I\) は環となる. この環を剰余環 residue ring または商群 quotient ring という. また, 商群 \(R/I\) の元(左剰余類)を \([r]:=r+I\) と書く. これはちょうど, \(x,y∈R\) に対して同値関係を \(x∼y:⇔x-y∈I\) と定義したときの同値類 \([x]=\{y∈R \mid x∼y\}\) に等しい.
環準同型
環 \(G\), \(G'\) について, 写像 \(φ : R → R'\) が環の元 \(x, y ∈ R\) に対し
\[φ(x+y)=φ(x)+φ(y),\quad φ(xy)=φ(x)φ(y)\]を満たすとき, \(φ\) を \(R\) から \(R'\) への環準同型写像 ring homomorphism, あるいは単に環準同型 ring hommomorohic という. また, 環 \(R\), \(R'\) に対し, 環の図式
\[\begin{CD} R @>{f}>> R' \\ @| \circlearrowleft & @| \\ R @<<{f'}< R' \end{CD}\]が可換になるような環準同型 \(f:R→R'\), \(f':R'→R\) が存在するとき, \(f\) を環同型写像 ring isomorphism という. このとき, \(R\), \(R'\) は 環同型 ring isomorphic といい, \(R ≃ R'\) と書く.
代数
可換環 \(k\) に対し, 環 \(R\) の中心への環準同型 \(ρ:k→Z(R)\) が与えられたとき, 組 \((R,ρ)\) または単に \(R\) を \(k\) 上の代数 algebra または \(k\)-代数といい, \(f\) をその結合射という. 環は \(\mathbb{Z}\)-代数である.
\(k\)-代数 \(R\), \(S\) 間の環準同型 \(f:R→S\) に対して, 環の図式
\[\begin{CD} k @>>> Z(R) @>{ι}>> R \\ @| & \circlearrowleft & @VV{f}V \\ k @>>> Z(S) @>{ι}>> S \end{CD}\]が可換であるとき, \(f\) を \(k\)-代数準同型 \(k\)-algebra homomorphism という. ただし, \(ι\) は包含写像.
体 \(K\) 上の代数 \(S\) について, \(S\) の \(K\) 上の基底 \(\{e_μ\}\) に対し
\[e_μ e_ν = {a^λ}_{μν} e_λ\]を満たす \({a^λ}_{μν}∈K\) を \(S\) の構造定数 structure constant という.
参考文献
- 堀田 良之 『代数入門 -群と加群-』 (数学シリーズ, 裳華房, 1987)
- 清水 勇二 『圏と加群』 (現代基礎数学 16, 朝倉書店, 2018)
Footnotes
-
Abel 群は整数環 \(\mathbb{Z}\) 上の加群でもあるため, この呼び方は一概に間違っているとは言えない. ↩